禁断(タブー)が、生まれる。
作品情報
原題 | Lamb |
製作 | 2021年/アイスランド、スウェーデン、ポーランド |
レイティング | R15+ |
上映時間 | 106分 |
監督 | ヴァルディマル・ヨハンソン |
出演 | ノオミ・ラパス ヒルミル・スナイル・グドゥナソン ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン |
あらすじ
アイスランドの人里離れた山間部で牧羊をして暮らす、イングヴァルとマリアの夫婦。ある日、いつものように羊の出産に立ち会ったふたりだったが、生まれてきた子羊はどう見ても普通ではなかった。しかし、その愛くるしさに心惹かれた夫婦は子羊にアダと名付け、家族として暮らすようになったのだが……。
感想と評価
羊から生まれた羊ではない何かと暮らす夫婦の、奇妙で幸福な日常生活がやがて崩壊していく姿を描いた、A24製作による禁断のネイチャースリラーです。
監督は『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』などの特殊効果を担当していたヴァルディマル・ヨハンソンで、主演は『プロメテウス』のノオミ・ラパス。
クリスマスの夜に、鼻息の荒い一人称視点とともに厩舎へとやって来た何者かによって種付けされ、顔面羊人間として生を受けたアダちゃんと、そんなアダちゃんを温かく迎え入れた夫婦との奇妙な家族風景を、ツッコミ不在のシュールコントとして描いたような本作『LAMB/ラム』。
凄く難解な映画というわけではなく、実子を亡くした喪失感の穴埋めを欲し、それによってある罪を犯し、ゆえに罰せられる夫婦の姿を描いた、教訓話というか現代のおとぎ話のようなもので、ストーリーテリングとしては酷く単純なものです。
ただその単純な物語を、壮大なアイスランドの自然をバックに、極端にセリフを排除しながら、必要以上に淡々と、シュールな家族コントのように撮っているのが異質な作品で、話の密度に比して体感時間は非常に長く感じるかもしれません。
つまりは少々退屈に感じられる部分もある作品で、さらに物語の流れとしては単純なものの、「で、結局なんなの?」と煙に巻かれる要素も確かにあり、かくいう私もこの作品の本質をきちんと理解しているかといったら、必ずしもそうとは言い切れないところがあります。
クリスマスに始まる悲劇というか喜劇でもあり、どこかキリスト教的な意味合いも感じますが、そっちではなくギリシャ神話、もしくは土着的な何かといった深読みも可能なものの、実はそれらすべてはミスリードで、もっと単純で、普遍的な何かを描いているのかもしれません。
己が欲望、たとえそれが幸福の再来だったとしても、他者の犠牲の上にそれが成り立つことは許されないという、ごくごく単純な「罪と罰」を描いていたような気が私自身はいたします。
まあ先述したとおりどこか煙に巻くような部分もある作品で、解釈はそれぞれの鑑賞者にゆだねる投げっぱなし感もあり、それが魅力であり欠点でもあるのかなぁとも思います。
つまりは観る者を選ぶ映画、合う合わないが激しい映画だとは思いますが、なんというか絶妙なリアリティラインを保ったアダちゃんを中心とした、ゆるくてシュールな家族コントとしての面白さは折り紙付きで、薄気味の悪い幸福ってやつを味わえるかと思いますよ。
おすすめポイント
DVD&Blu-ray
VOD/動画配信
『LAMB/ラム』を配信しているVODはこちら(2023年1月現在。最新の配信状況は各公式サイトにてご確認ください)。
予告編動画
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