ホラー映画の花形といえば、みんな大好き腹ペコゾンビ、後悔も謝罪も土下座も受けつけてくれないしつこい幽霊、地の果てまでも追いかけてくるやる気満々の殺人鬼などが顔でしょうが、本当に怖いのは人間、ただの人間の狂気なのではないでしょうか。
今回はそんなただの人間に秘められた狂気へと迫る、いわゆるサイコスリラー系ホラー映画のおすすめ作品を紹介していきたいと思いますので、どうぞ最後までお付き合いください。
各作品が配信されているVOD(動画配信サービス)も紹介しておりますので、どうぞご参考に(2021年2月現在。最新の配信状況は各公式サイトにてご確認ください)。
おすすめサイコスリラー
見知らぬ乗客
作品情報
- 1951年/アメリカ/101分/G
- 監督:アルフレッド・ヒッチコック
- 出演:ファーリー・グレンジャー/ロバート・ウォーカー
名匠ヒッチコックの近来稀なる快心作!!スリラーの全手法の総てが描かれた傑作!!
電車で偶然乗り合わせた男からまさかの交換殺人を依頼されたことにより、窮地に陥るテニスプレイヤーの受難を描いた1951年の作品です。監督は『サイコ』や『鳥』のサスペンス映画の神様、アルフレッド・ヒッチコック。
サイコスリラーといえば『サイコ』だろうと皆さま思うでしょうが、個人的に推したいのはヒッチはヒッチでもこっち、『見知らぬ乗客』のほうなのです。笑顔で交換殺人を申し込んできて、勝手に自分だけ殺人を実行し、「さあ次はあなたの番ですよ、さあ、さあ、さあ!」とこれまた笑顔で詰め寄る男の底知れぬ狂気。
そんなとことん狂った男の狂気を盛り上げるヒッチコックの演出も芸術の域で、とりわけ冒頭の靴、遊園地での眼鏡、そしてテニスの試合における視線にご注目ください!
『見知らぬ乗客』を配信しているVODはこちら。
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反撥
作品情報
- 1965年/イギリス/105分/G
- 監督:ロマン・ポランスキー
- 出演:カトリーヌ・ドヌーヴ
処女の心と身体をゆすぶる性への憧れと反撥!その鮮烈の描写で全世界に異常な戦慄を呼んだ問題作!
性に対して強いあこがれと嫌悪感をいだく神経質な女性が、隣室から聞こえてくる姉の情事に悩まされ、いつしか精神のバランスを失って狂気の淵へと堕ちていく姿を描いた1965年の作品です。監督は『テナント/恐怖を借りた男』のロマン・ポランスキーで、主演は『ハンガー』のカトリーヌ・ドヌーヴ。
変態ポランスキーが『ローズマリーの赤ちゃん』の前に撮った、女性を主体とした心理スリラーの傑作でして、いろいろと深読みさせるバックボーンを匂わせながら、「何もそこまで」って地点まで常軌を逸していく女性の狂気を、シュールでエロティックな悪夢として描いためちゃくちゃ面白くも恐ろしい作品です。
『見知らぬ乗客』と同じく、そんな処女の狂気を彩るポランスキーの演出がまた絶妙でして、白黒でバッキバキに決まった映像美はただそれだけで必見です!
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戦慄の絆
作品情報
- 1988年/カナダ/116分/G
- 監督:デヴィッド・クローネンバーグ
- 出演:ジェレミー・アイアンズ/ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド
引き裂いてあげる…二人のあなたを。このままでは壊れてしまうから。
固い絆で結ばれた一卵性双生児の産婦人科医のあいだに、ひとりの女性が介入したことによって崩れ出していく兄弟のバランスを描いた1988年の作品です。監督は『ヴィデオドローム』『ザ・フライ』の鬼才デヴィッド・クローネンバーグ。
内臓感覚むき出しなボディホラーの旗手として活躍していたクローネンバーグが、より人の深部へと深く深く潜り込んで抉り出すようになったきっかけの作品で、本作で描かれているのは、本来はひとつであるべきだった独立した存在の結合という、一見すると狂気でありながら実際は美しい完成形を提示した、パーフェクトサイコスリラー。
それを映し出す徹底的に凍りついたクローネンバーグの映像美はやはり秀逸で、とりわけフェティシズムあふれるオリジナル手術器具の造形美は筆舌に尽くしがたい!
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隣人は静かに笑う
作品情報
- 1999年/アメリカ/119分/G
- 監督:マーク・ペリントン
- 出演:ジェフ・ブリッジス/ティム・ロビンス
この映画の登場は、これまでの“スリラー”の常識を完全にくつがえした。
一見すると温厚そのものだがどこか怪しい隣人の素性を探るうちに、恐ろしい真実へと迫った大学教授の決意と行動と運命を描いた1999年の作品です。監督は『プロフェシー』のマーク・ペリントンで、主演は『ロリ・マドンナ戦争』のジェフ・ブリッジスと、『ジェイコブス・ラダー』のティム・ロビンス。
ちょっとあまりに危険な内容ゆえに現在ではDVD廃盤、レンタル禁止という憂き目に遭い、視聴困難作品と化している本作。その理由を書くとネタバレになるので多くは語れませんが、「いったいどこからどこまで用意周到に計画していたんだこの男は?」という底知れぬ狂気に触れて素敵な気分を味わえることは必至です。
正直なところ中盤ではいったん中だるみするかもしれませんが、そこからラストにかけての怒涛の展開には目玉が飛び出て脱腸して椅子から数センチ飛び上がりますよ!
『隣人は静かに笑う』を配信しているVODはこちら(貴重ですよ!)。
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聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア
作品情報
- 2017年/イギリス、アイルランド、アメリカ/121分/PG12
- 監督:ヨルゴス・ランティモス
- 出演:コリン・ファレル/ニコール・キッドマン/バリー・コーガン
“彼”は4つの悲劇を用意した―
美しい妻とふたりの子供に恵まれ、郊外の豪邸に暮らしている心臓外科医。彼と家族のもとに現れた謎の少年をきっかけとし、家族を襲う奇怪な現象と迫られる決断を描いた2017年の作品です。監督は『籠の中の乙女』のヨルゴス・ランティモスで、主演は『フォーン・ブース』のコリン・ファレル。
ギリシアが誇る変態難解キチガイ監督ヨルゴス・ランティモスが放った奇怪なサイコスリラーは、彼が得意とする理不尽な箱庭を舞台とした究極の家族間闘争劇ともいえる内容で、それを暗く静かで凍てついた藪の中へと放り込んでみせた置いてけぼりは、放置プレイが大好きなドMにはたまらんご褒美です。
一見すると幸福そうな家族の闇を暴き出す、謎めいた少年バリー・コーガンの顔面力ときったねー飯の食い方は胸糞が悪くなるほど素敵です!
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おすすめサイコスリラーまとめ
我々と同じ顔をし、服を着、普通に生活しているはずの人間に秘められた狂気を描くサイコスリラーの魅力とは、そのネジが外れた狂った言動を他人事として、絵空事として面白恐ろしく消費しながらも、もしかしたらすぐ近くに、あるいは自分自身が、と思わせる親近性にあるのでしょうね。
狂った人間は自分が狂ってるなんて露ほども思ってはおりませんから。
自分が狂ってしまわぬように狂った映画を観るという行為はけっこう効果的ではないかと思いますので、自身の狂気とも折り合いをつけるために、素敵なサイコスリラーを観て皆さま心の洗濯に日夜励みましょうぞ。
そんなサイコパス予備軍の皆々様のために、暇を見つけては新たなおすすめサイコスリラーを投下していくつもりですので、どうぞ新聞に載る前にまた遊びに来てちょうだいね♡