スラッシャー映画とは、無数にあるホラー映画のサブジャンル中のひとつで、一般的には頭のおかしい殺人鬼によって標的にされた生贄たちの阿鼻叫喚を、血とエロスによって享楽的に描いた、心癒される現代のおとぎ話のことである。
1980年代にそのブームは猛烈な血と熱を帯び、世界中のポンコツどもによって一大スラッシャーブームを巻き起こすのですが、熱く燃え上がりすぎた炎は鎮火するのもまた早く、あっという間に消費されつくして、1990年代に入る頃にはもはや下火に。
しかし、スラッシャー映画は、殺人鬼は死ななかった。
その時代に合わせて姿かたちは微細に変化させながら、あくまで人体を切り刻むことをモットーに、草葉の陰で、ときおり陽の光を浴びながら、現代までしつこく生き続け、人を殺して殺してついでに殺してそのうえ殺しまくっていたのです。
今回はそんなゴキブリ並みの生命力を誇るスラッシャーホラーのおすすめ作品を、嫌がるあなたを相手に無理矢理にでもご紹介していきたいと思いますので、どうぞ最後まで辛抱してお付き合いください。
おすすめスラッシャーホラー
暗闇にベルが鳴る
作品情報
1974年/カナダ/98分/G
監督:ボブ・クラーク
出演:オリヴィア・ハッセー/キア・デュリア/マーゴット・キダー
あなたは誰!なぜ私たちを―
クリスマス前後のとある大学の女子寮を舞台に、一本のイタズラ電話をきっかけとして始まる陰惨な連続猟奇殺人を描いた、1974年のスラッシャーホラーです。監督は『死体と遊ぶな子どもたち』のボブ・クラークで、主演は布施明に「君は薔薇より美しい」と口説き落とされたオリヴィア・ハッセー。
何をスラッシャー映画の始祖とするかは意見が分かれるところでしょうが、特定の祝祭日に、限定的な場所で、多感な美少女たちが、一人称視点の殺人鬼に惨殺されるという、スラッシャー映画の雛形を作ったのはこの作品なのではないかと私なんかは思っております。
マイナーゆえにその知名度は低いですが、始祖ゆえの安定的な面白さと恐怖を上回る、特異な殺人鬼描写がキラリと光る隠れた逸品ですので、未見の方は是非に。
ハロウィン(1978)
作品情報
1978年/アメリカ/90分/G
監督:ジョン・カーペンター
出演:ジェイミー・リー・カーティス/ドナルド・プレザンス
奇妙な息づかいが聞こえたら―決して振り返らないで!
ハロウィンの夜にわずか6歳で姉を惨殺した殺人鬼マイケル・マイヤーズが、15年後、ふたたび野に放たれ、故郷ハドンフィールドを血で染め上げる姿を描いた、1978年のスラッシャーホラーです。監督は『遊星からの物体X』のジョン・カーペンターで、主演は『ザ・フォッグ』のジェイミー・リー・カーティス。
スラッシャー映画の始祖として『暗闇にベルが鳴る』を上で紹介いたしましたが、ブームの火付け役となったのは間違いなくこの作品でしょうね。本作の大ヒットがなければのちのスラッシャー映画ブームは存在しなかったといっても過言ではない、傑作中の傑作スラッシャー映画です。
正直なところ、いま観ると残酷描写自体はたいしたことないのですが、そこへと至るまでの様式美的演出の数々が本当に不穏で、怪しく、美しい、永遠の悪夢のようなのですよね。
40年後に正統なる続編として同名作品の『ハロウィン』(2018)が製作されておりますが、こちらもスラッシャー映画に現代的なアップデートを施した意欲作で、どうぞ併せてのご鑑賞をおすすめいたします。
13日の金曜日(1980)
作品情報
1980年/アメリカ/95分/R15+
監督:ショーン・S・カニンガム
出演:ベッツィ・パルマー/エイドリアン・キング/ケヴィン・ベーコン
なぜ全米で失神者が続出したのか!?
13日の金曜日に起きたある事件をきっかけに、長らく閉鎖されていたクリスタルレイクのキャンプ場を舞台にして巻き起こる、指導員候補生たちを襲う正体不明な殺人鬼の暗躍を描いた、1980年のスラッシャーホラーです。監督は『ザ・デプス』のショーン・S・カニンガムで、若き日のケヴィン・ベーコンがなにげに出演。
「スラッシャー映画といえば?」と尋ねられて、誰もが真っ先に思い浮かべるであろう超有名作品。ホッケーマスクを装着した物言わぬ巨漢殺人鬼、ジェイソンの殺戮祭りに皆さま心躍らせたことでしょうが、実は記念すべき第1作目ではジェイソンは誰ひとりとして殺めてはおらんのです。
本作はスラッシャー映画のアイコンと化したジェイソン誕生のきっかけを描いた、奇形差別を、イジメを、セックスを、リア充どもを許さぬ、世直し殺戮映画なのですよ、これが。
スクリーム(1996)
作品情報
1996年/アメリカ/111分/G
監督:ウェス・クレイヴン
出演:ネーヴ・キャンベル/スキート・ウールリッチ/ドリュー・バリモア
叫びだしたら、止まらない
カリフォルニア州の田舎町を舞台に、今やハロウィンでは定番のゴーストマスクを装着した殺人鬼に付け狙われる、美少女たちの恐怖と笑いを描いた、1996年のスラッシャーホラーです。監督は『鮮血の美学』でデビューし、1980年代には『エルム街の悪夢』シリーズをヒットさせたウェス・クレイヴン。
1980年代に一大ブームを巻き起こしながら、一気に消費されつくして1990年代にはもはや過去の遺物と化していたスラッシャー映画。本作はそんな遺物をネタとして扱い、メタ的なあるあると裏切りによって再構築した、恐怖と笑いが混在化した発展形スラッシャー映画だと言えるでしょう。
スラッシャー映画あるあるについて登場人物たちが嬉々として喋りまくり、時にはそのとおり、時にはその逆を行く死にざまに、是非とも注目していただきたいですね。
デッドコースター
作品情報
2003年/アメリカ/90分/R15+
監督:デヴィッド・R・エリス
出演:A・J・クック/マイケル・ランデス/アリ・ラーター
生き残るのは、死んでも無理
予知夢によって凄惨極まりないハイウェイ事故から辛くも逃れた9人の男女。しかし運命に逆らった彼らは、シナリオ改竄を認めない死神によって執拗に狙われ続けるという、2003年のスラッシャーホラーです。監督は『スネーク・フライト』『シャーク・ナイト』などの佳作アニマルホラーを撮りながらも、2013年に早世したデヴィッド・R・エリス。
「スラッシャー映画の殺人鬼とは実体を伴ったものでなければならないのか?」という見事な発想で、姿なき死の運命、逃れられない死のシナリオを殺人鬼として設定した『ファイナル・デスティネーション』シリーズは、すでにネタが出尽くした感のあるスラッシャー映画にとっての、まさに起死回生。
中でも2作目『デッドコースター』における死神の美学は凄まじく、冒頭のハイウェイ事故からフルスロットルな美しきまでのピタゴラスイッチ的殺戮祭りには、皆さま歓喜すること請け合いだと思いますよ。
サプライズ
作品情報
2011年/アメリカ/94分/R15+
監督:アダム・ウィンガード
出演:シャーニ・ヴィンソン/ニコラス・トゥッチ/バーバラ・クランプトン
家に誰かが入ってきたらしい。
両親の結婚35周年を祝うために、人里離れた別荘へと集まった10人の家族。そんな一見すると幸せそうな家族の晩餐を、動物の覆面を被った謎の殺戮者たちが襲撃してくるという、2011年のスラッシャーホラーです。監督は『ザ・ゲスト』のアダム・ウィンガード。
スラッシャー映画の醍醐味とは、狂気の殺人者によって標的にされた生贄どもの、阿鼻叫喚の死にざまを嬉々として愛でるもの。そんなお約束を逆手にとって、狩る者と狩られる者との逆転現象によってスラッシャー映画の新境地を開いたのが本作『サプライズ』。
いい意味でふざけた軽薄さが抜群に面白く、急所をピンポイントで切り裂く人体破壊描写も的確に痛々しい、新世代スラッシャー映画の快作だと言って差し支えないでしょう。
おすすめスラッシャーホラーまとめ
ある種の定型が機能するがゆえ、作りやすく、観やすく、それゆえに散々消費され尽くして、一時は絶滅しかけたスラッシャーホラー。
しかし、スラッシャー映画は、殺人鬼は絶対に死にましぇん。
その時代に合わせて姿かたちを変え、永遠に生き続け、人を殺して殺してついでに殺してそのうえ殺しまくるのです。
そんな不死身のスラッシャーホラーの魅力を少しでも皆様に広げ、愛すべき殺人鬼たちのお役に立てるのであれば不肖な私の本望。
暇を見つけては新たなスラッシャーホラーの追加掲載も行っていくつもりですので、「殺人鬼大好き♡」って狂った脳髄をお持ちの方は、またどうぞ遊びに来てくださいね。